カート・ヴォネガット
解説
あまり知られてない作家さんでしょうね。しかし、一部の方からは圧倒的(あるいは教祖的)支持を受けているアメリカの作家です。映画好きの人ならば、映画の「スローターハウス5」の方でご存知かも知れません。
略歴に示したように、最初は当時隆盛だったアメリカのパルプSF雑誌からスタートします。確かにSF的背景を持った作品が主体でした。日本の出版元もハヤカワでしたし、最初の頃はしばしばSF作家に分類されていました。そのあたりは安部公房と似ているかも知れません。
初期はまったく売れませんでしたが、1960年ごろからアメリカのヒッピー達の支持を受け始め、やがてアングラの教祖のように奉られ、最後には一般の人からも爆発的な支持を受けるようになります。少し前のアメリカを代表する作家と言っても良いでしょう。
文体は相当変わっていて、10行にも満たないようなパラグラフを積み上げて長編小説にしていくという手法をとることが多いのが特徴です。極端に言えば、ページを遠くから見ただけでヴォネガット作品と判るほどです。
しかし、何と言ってもその特徴は「思想性」でしょう。思想性といっても難しい言葉で語るのでは有りません。争いを好む人類に絶望し、それを強烈に皮肉りつつも、愛情を持って見守る。そういう作品群です。
この中には多くの不思議な寓話・登場人物が出てきます。有名なものを幾つか。
【ボコノン教】・・・「猫のゆりかご」
ボコノン教の聖典『ボコノンの書』は、次のような一文ではじまります。
「わたしがこれから語ろうとするさまざまな真実の事柄は、みんなまっ赤な嘘である」
「フォーマ(=無害な非真実)を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」
既成宗教に対する強烈な皮肉でしょうか。ちなみにヴォネガットは無神論者です。
【人工的拡大家族】・・・「スラップスティック」
元アメリカ合衆国大統領が提唱する
「すべての人民に新しいミドルネームを発行することにり、同じミドルネームを持つ人同士が新しい家族となり、孤独の害悪を排しよう。」
というキャンペーン。
【キルゴア・トラウト】・・・多出
ヴォネガットの作品中にやたらと出没する無名(というかアングラ)のSF作家。
現実にキルゴア・トラウトの作品が出版されていますが、これを書いたのはヴォネガットではなく、フィリップ・ホセ・ファーマーなのだそうです。
略歴
年 | 記 述 |
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1922 | アメリカ中西部インディアナ州のインディアナポリスで金物チェーン店で財をなしたドイツ移民・ヴォネガット家の三子として生れる |
大恐慌により、家は凋落。自らは科学の道を目指すため、コーネル大学に進学 | |
1940頃 | 第二次世界大戦が勃発。故国のドイツ民族を相手に闘うため出征。 経済的な苦境と息子の戦場行きのショックで母が自殺。 ドイツ軍の捕虜になり、強制労働に従事している時、アメリカ軍のドレスデン大空襲に遭遇し、正義の名の元に行われた戦争が一般市民の虐殺の上に成り立っていたことを目撃する |
1950頃 | 終戦後、アメリカに戻りコーネル大学を卒業。ジェネラル・エレクトリック社に就職し、広報の仕事につく。 サラリーマンとして働きながら幾つかの短編小説を書き、それをSF系の雑誌に送り始める。 |
1952 | サラリーマンを止め、本格的に作家活動を開始。初の長編小説「プレイヤー・ピアノ」を発表。 |
1959 | 「タイタンの妖女」を発表。ほとんど話題にならず。 |
1963 | 「猫のゆりかご」を発表。ウッドストック世代の若者の心をしっかりと捕らえ、同時代のカルト作家に仲間入りする。 その後「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」(1965)「スローターハウス5」(1969)など代表作を発表。 |
1970 | 戦乱のビアフラで取材活動。イボ族の大家族の助け合いの暮らしに一種の理想郷を描くが、その文化が世界から見捨てられ餓えの中で消滅していく姿を見る。 |
その後の作品 | 以前ほどのカリスマ性無いものの、その後も作品を発表 Breakfast of Champions, or Goodbye, Blue Monday (1973) Slapstick, or Lonesome No More (1976) Jailbird (1979) Deadeye Dick (1982) Galapagos (1985) Bluebeard (1987) Hocus Pocus (1990) Timequake (1997) |
▽▽読了作品(2002以降の読了本は書評付き)▽▽