Todoの独り言です。
最近はブログに書き込むことの方が多いのですが。。。。、

2004/10/08

"フワッとした泡で出てくるから、手のひらに広げるだけ。まだ上手に洗えないお子様でもきちんと汚れを落とせ、洗い残しやすい手の甲や指の間まできれいに洗えます。"こんな大手洗剤メーカーのハンドソープに関するコマーシャルを見ます。
これは洗浄作用についての一般的誤解をベースに、洗剤メーカーにあるまじき不衛生を薦める誤ったコマーシャルです。

ここからしばらくは学校で習った事の復習です。覚えておられる方は飛ばしてください。

1.水と油
水は一個の分子内で電気的に+と-に分離しています。これを"極性"とよびます。蛇口から細く水をたらせながら、擦った下敷き(=静電気を持ったもの)を近づけると水流は大きく曲がります。これは水が極性をもっていることの証明になります。
一個の水の分子を(+水-)で表現すると、水は(+水-)(+水-)(+水-)というように+と-がくっ付く形で並ぼうとします。
一方、油は極性を持っていません。水と油を混ぜた時、水の分子同士は電気的にくっ付こうとし、結果的に油がはじき出され、水と油で分離してしまいます。
   アルコールは水と同じように極性をもちます。
   水とアルコールを混ぜると(+水-)(+ア-)(+水-)のように並び、水とアルコールは混ざります。
   一方、極性のない液体(油)同士も(水のように阻害する性格がないので)混ざり合います。
   つまり、極性同士、無極性同士ならば混ざり合うのです。

2.界面活性剤
石鹸や洗剤は界面活性剤の一種です。界面活性剤の分子は図の左側のような構造をしています。

左側の無極性部分が油に溶け、右の極性部分が水に溶けます。こうして水と油を混ぜてしまうのが界面活性剤です(図の右側)。
物を洗う時、それが水に溶けるもの(極性をもつ物)ならば、水洗いだけで綺麗になります。しかし汗などには油分が含まれます。そのため、石鹸などを使って油分を水に溶かし出しているのです。

3.泡
水は強い表面張力を持っています。
表面張力とは、なるべく小さな表面積になろうとする力です。体積あたりで最も表面積が小さい形が球なので、重力などの他の力が無いところでは、水は球形になろうとします。雨滴などもほぼ球形です。
ところで、泡と言うのはきわめて広い表面積を持つ形です。石鹸水が泡立つのは、界面活性剤の無極性部分が空気側に出ることにより、空気と水が混じり合ったような状態を安定させるからです。

・・・・さて。
泡が物を綺麗にすると思っている人が多いようです。でもそれは大きな誤解です。
泡は、油を落とすための界面活性剤が、空気に作用した時に出来る副産物です。
その証拠に、機械油がべったりついた手を石鹸で洗っても、最初は泡は立ちません。何度か洗い流して行くうちに、泡立ちが始まります。それは最初に油を界面活性剤が溶かし出し、油分が減った結果、空気と水の混じり合いに石鹸成分が使える様になった為です。泡が物を綺麗にするのではなく、綺麗になって来たから泡立ってきたのです。

そう見れば上のコマーシャルがとんでもないことが良く判ります。
最初から泡で出すことによって、子供は手を擦り合わせなくなります。塗りたくって、水で流して終わり。それでは汚れは取れていません。泡の立ちにくい石鹸でゴシゴシ擦り合わせ、綺麗に泡が立つまで洗う、それが本当の手洗いの姿です。
専門メーカーとして有るまじきコマーシャルだと言わざるを得ません。
   実際には菌の類まで落とそうとすると、水でしっかり流すことも必要です。

私は技術畑の人間です。今の仕事はまったく違いますが、大学時代は界面活性剤を扱っていました。
恐らく、この会社で技術開発を行っている人は、このコマーシャルを苦々しく思っているのではないかと思います。
変にユーザーの無知に付け込む(というより、これは煽ると言うべきか)様なことをせず、ユーザーに正しい知識を伝え、売り出すことが専門メーカーの務めでもあると思うのです。