三崎亜記の「この国」
△2 | 『ターミナルタウン』再読後の更新 | 2024/07/26 |
△1 | 『作りかけの明日』読了後の更新 | 2019/02/03 |
初版 | 2018/03/22 |
三崎亜記さんの小説には「この国」と呼ばれる仮想の国がよく出てきます。
時系列的に作品を見てみると『失われた町』の執筆時に「この国」の政治形態や年表、地図などが描かれ、その後の作品の多くはそれに従って作られているようです。
日本のパラレルワールドです。
もっとも特徴的なのは「この国」が、専制君主国として急速に発達した後、海外侵略を狙った戦争を起こして敗戦。その後に暫定統治機構がこの国を8州に分割し、それぞれの州で10年にわたり独自政策を敷いて様々な実験を行ったこと。そして今も8つの州からなる合衆国の形態を持っていることです。
「この国」と語られるだけで国名は出てきません。
「この国」の地図
これまで読んだ作品にある記述から想像した「この国」と周辺(西域、居留地)の地図です。
赤字は『作りかけの明日』読了後の更新です。
上図の依拠はこちらをご覧ください
【Memo】
8州あるはずですが、これまで名前が出たのは北端連合州・北洲・東州・旧都連合州・西州の5州です。[△2]
このうち北端連合州は北海道に、北洲は北陸から東北地方の日本海側に当たると思われます。
また、東州は東海地方を、旧都連合州は近畿+中国地方を、西州は九州地方に当たるものと思われます- 8州あるはずですが、これまで名前が出たのは北端連合州・北洲・東州・旧都連合州・西州/ 南州[△2]の6州です。
- このうち北端連合州は北海道に、北洲は北陸から東北地方の日本海側に当たると思われます。
- また、東州は東海地方を、旧都連合州は近畿地方を、西州は中国地方および北九州地方に当たるものと思われます[△2]
- 南州に阿蘇もしくは桜島を思わせる火山地帯が有る事から南九州地方と考えます。また南端の国境にはハテノ島という島が有ります(おそらく南州の一部)。[△2]
- 名称不明の州の位置の一つは首都回り(上の地図には首都連合州と記述)であり、もう一つは『失われた町』に出てくる都川市(首都から北東に200㎞ほど離れた海にほど近い都市)を含む東北の太平洋岸と考えています。[△2]
- 都市については、しばしば複数の都市を融合しているのではないかと想像しています
- 多くの作品に登場する名称不明の都市(この街)は福岡市のようです
場所(大陸に近く)や地形(市の中央を南北に川が流れ、湾口に島があって砂嘴で繋がっている)が良く似ています
三崎さんは福岡県久留米市在住で活躍してる作家さんです
但し、福岡市の唐人町は"異邦郭"というほどの特異性は無く、長崎中華街のイメージを持ち込んでいるように思います - 『作りかけの明日』の中に「南には海が広がり、海を渡ればすぐに西域や居留地だ」という記述があります。
これを正しいとすれば「この街」の詳細図の湾や砂州は上下逆転し、さらに居留地、西域も「この国」の南にある事になります。
他の記述との矛盾も有りそうなので、一旦は無視します(海は北にある)。[△1] - 旧都は京都+大阪の様です(蔡所や墓宮の多い古都であり(→京都)商都、派手好きだったという領主の5層の天守閣がある(→大阪))
- 『ターミナルタウン』の舞台である静原町は鉄道の様子からは米原の様です。
ただし、西州から来た列車が旧都を抜け、静原町の先で大きな湖(琵琶湖?)に沿って走るシーンがあります。
この記述を重視すると、旧都=大阪、静原町=京都という考え方もあります。 - 東州の州都・中津原はその規模(この国の第2又は第3の大都市)、および位置(この国の中央)から名古屋の様です
- 首都は東京。独立した州のはずですが州名は出てきません(図中には仮に首都連合州と記述してます)
- 居留地は周囲50㎞ほどの島であり、九龍をイメージさせる南玉壁があることから香港のようでが、位置的には妙です。
「この街」から船に乗って直線距離で6時間であり、かつ「西域南西大地に隣接する島」となっています。そうすると距離的には韓国あたりに、さらに西域の中心はその北東になるので、西域=旧満州地域、居留地=上海あたりという見方もあるかもしれません。
三崎亜記作品と「この国」の関係
これまで発表された三崎さんの作品と「この国」の関係を下の表に示します。
月ヶ瀬を舞台にした『失われた町』の最後に「この街」が現れ、それが『刻まれない明日』や『コロヨシ!!』に引き継がれます。続いて『コロヨシ!!』の途中にちょっと現れる静原町を舞台にした『ターミナルタウン』が書かれる、そういう構図になっているようです。
一方、短編集には明確な地名が出てこない傾向にあります。ただ、短編に出てきた状況や用語が長編の中に顔を出したりします。
・7階撤去;『廃墟建築士』の中の「七階闘争」→長編『刻まれない明日』
・ヒノヤマホオウが展示されている動物園;『バスジャック』の中の「動物園」→長編『刻まれない明日』
今回は地理的なものに集中してたので気付いたものは少ないのですが、そういう見方で見ると面白いのかもしれません。
かつてアイザック・アシモフが別々に描いた自作のファウンデーションとロボットの2つの潮流を、『ロボットと帝国』によってひとつの未来史としてまとめたように、三崎さんも初期に書いた作品も「この国」の中に統合していこうとしているような気がします。
タイトル | 出版社 | 出版年月 | 種別 | 「この国」 | 主要舞台 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
関連(「短編名」) | 思念 操作 |
街の 消失 |
掃除 | |||||
となり町戦争 | 集英社 | 2005/01 | 舞坂町 | |||||
バスジャック | 集英社 | 2005/11 | 短編集 | 「動物園」 | ● | - | ||
失われた町 | 集英社 | 2006/11 | ● | ● | 月ヶ瀬町、都川市、この街 | |||
鼓笛隊の襲来 | 光文社 | 2008/03 | 短編集 | 光陽台、飛代市 | ||||
廃墟建築士 | 集英社 | 2009/01 | 短編集 | 「図書館」 | ● | - | ||
刻まれない明日 | 祥伝社 | 2009/07 | ● | ● | この街 | |||
コロヨシ!! | 角川書店 | 2010/02 | ● | ● | この街、静原町(静ヶ原駅) | |||
海に沈んだ町 | 朝日新聞出版 | 2011/01 | 短編集 | △「海に沈んだ町」 | △ | - | ||
決起! : コロヨシ!! 2 | 角川書店 | 2012/01 | ● | ● | この街 | |||
逆回りのお散歩 | 集英社 | 2012/11 | 中編集 | △「戦争研修」 | 舞阪町、州都 | |||
玉磨き | 幻冬舎 | 2013/02 | 短編集 | 遠見分市、東都緑沢 | ||||
ターミナルタウン | 文藝春秋 | 2014/01 | ● | 静原町、開南市、旧都 | ||||
終舞! : コロヨシ!! 3 | KADOKAWA | 2015/02 | ● | ● | この街 | |||
手のひらの幻獣 | 集英社 | 2015/03 | 中編集 | 「研究所」「遊園地」 | ● | - | ||
ニセモノの妻 | 新潮社 | 2016/04 | 短編集 | 未分析 | ||||
メビウス・ファクトリー | 集英社 | 2016/08 | 未分析 | |||||
チェーン・ピープル | 幻冬舎 | 2017/04 | 短編集 | 未分析 | ||||
30センチの冒険 | 文藝春秋 | 2018/10 | ○ | ● | - | |||
作りかけの明日 | 祥伝社 | 2018/12 | ● | ● | ● | △ | この街、静ヶ原駅 |
今後とお願い
『ニセモノの妻』『メビウス・ファクトリー』『チェーン・ピープル』は図書館で借りて読んだ作品なので手元になく、今回は分析できませんでした。今後、これらや今後発表される作品も見て行きたいと思います。
もし、協力いただける方が居られましたら、情報提供など頂けると幸いです。
元ネタは、こちらのように整理しています。→こちら