2001年から書き始めたトドの書評データベースです。
2019年7月に2000冊を越え、今も年100冊程度追加しています。
(書評が無いのは2000年以前の読了本です)


三崎亜記の「この国」

△1:2019/02/03

△1:『作りかけの明日』読了後の更新
初版:2018/03/22

三崎亜記さんの小説には「この国」と呼ばれる仮想の国がよく出てきます。
時系列的に作品を見てみると『失われた町』の執筆時に「この国」の政治形態や年表、地図などが描かれ、その後の作品の多くはそれに従って作られているようです。

日本のパラレルワールドです。
もっとも特徴的なのは「この国」が、専制君主国として急速に発達した後、海外侵略を狙った戦争を起こして敗戦。その後に暫定統治機構がこの国を8州に分割し、それぞれの州で10年にわたり独自政策を敷いて様々な実験を行ったこと。そして今も8つの州からなる合衆国の形態を持っていることです。
「この国」と語られるだけで国名は出てきません。

「この国」の地図

これまで読んだ作品にある記述から想像した「この国」と周辺(西域、居留地)の地図です。
赤字は『作りかけの明日』読了後の更新です。

  上図の依拠はこちらをご覧ください

【Memo】

三崎亜記作品と「この国」の関係

これまで発表された三崎さんの作品と「この国」の関係を下の表に示します。
月ヶ瀬を舞台にした『失われた町』の最後に「この街」が現れ、それが『刻まれない明日』や『コロヨシ!!』に引き継がれます。続いて『コロヨシ!!』の途中にちょっと現れる静原町を舞台にした『ターミナルタウン』が書かれる、そういう構図になっているようです。
一方、短編集には明確な地名が出てこない傾向にあります。ただ、短編に出てきた状況や用語が長編の中に顔を出したりします。
 ・7階撤去;『廃墟建築士』の中の「七階闘争」→長編『刻まれない明日』
 ・ヒノヤマホオウが展示されている動物園;『バスジャック』の中の「動物園」→長編『刻まれない明日』
今回は地理的なものに集中してたので気付いたものは少ないのですが、そういう見方で見ると面白いのかもしれません。
かつてアイザック・アシモフが別々に描いた自作のファウンデーションとロボットの2つの潮流を、『ロボットと帝国』によってひとつの未来史としてまとめたように、三崎さんも初期に書いた作品も「この国」の中に統合していこうとしているような気がします。

タイトル 出版社 出版年月 種別 「この国」 主要舞台
関連(「短編名」) 思念
操作
街の
消失
掃除
となり町戦争 集英社 2005/01 舞坂町
バスジャック 集英社 2005/11 短編集 「動物園」
失われた町 集英社 2006/11 月ヶ瀬町、都川市、この街
鼓笛隊の襲来 光文社 2008/03 短編集 光陽台、飛代市
廃墟建築士 集英社 2009/01 短編集 「図書館」
刻まれない明日 祥伝社 2009/07 この街
コロヨシ!!  角川書店 2010/02 この街、静原町(静ヶ原駅)
海に沈んだ町 朝日新聞出版 2011/01 短編集 △「海に沈んだ町」
決起! : コロヨシ!! 2 角川書店 2012/01 この街
逆回りのお散歩 集英社 2012/11 中編集 △「戦争研修」 舞阪町、州都
玉磨き 幻冬舎 2013/02 短編集 遠見分市、東都緑沢
ターミナルタウン 文藝春秋 2014/01 静原町、開南市、旧都
終舞! : コロヨシ!! 3 KADOKAWA 2015/02 この街
手のひらの幻獣 集英社 2015/03 中編集 「研究所」「遊園地」
ニセモノの妻 新潮社 2016/04 短編集 未分析
メビウス・ファクトリー 集英社 2016/08 未分析
チェーン・ピープル 幻冬舎 2017/04 短編集 未分析
30センチの冒険 文藝春秋 2018/10
作りかけの明日 祥伝社 2018/12 この街、静ヶ原駅

今後とお願い

『ニセモノの妻』『メビウス・ファクトリー』『チェーン・ピープル』は図書館で借りて読んだ作品なので手元になく、今回は分析できませんでした。今後、これらや今後発表される作品も見て行きたいと思います。
もし、協力いただける方が居られましたら、情報提供など頂けると幸いです。
元ネタは、こちらのように整理しています。→こちら