2001年から書き始めたトドの書評データベースです。
2019年7月に2000冊を越え、今も年100冊程度追加しています。
(書評が無いのは2000年以前の読了本です)


見川 鯛山

2006/09改定

解説

一般にはほとんど知られていない作家さんでしょうね。
本職は那須湯本の開業医。獅子文六を診察したのをきっかけに文筆をはじめ、戸川幸夫により「山医者」と命名され、30年以上にわたり「山医者シリーズ」を出し続けている人です。最新刊は2001年11月に出版された「山医者の読みグスリ」。シリーズの第何巻に当たるのでしょうか?

〔2006/9/02追記〕
その後、2004年9月に「見川鯛山これにて断筆」を出版され、文字どおり断筆されたようです。

この「山医者シリーズ」は医者向けの月刊誌 Scopeに掲載されたものをまとめた物で、一編が10ページの満たないショートショートです。

各作品は、まず凄まじいような自然描写からスタートします。

 短命な秋が、一気に那須火山を真紅に燃やし、燃やしつくして去った。
 もう寒い北風に、赤や黄色や紫の落ち葉が舞い上がり、そこからは横なぐりの気流に乗って、紙吹雪のように湯の町へ降っている。
 まだ小僧の冬の神様が、その上に何度か淡い雪を置いた。
 元祖温泉まんじゅう屋の・・・・

そこから始まる僅か数ページの作品は、時にセンセ(著者)とジッチャ・バッチャの漫才めいた掛け合いであり、土俗的な艶笑譚であり、どす黒く悲惨な話であったりします。

登場人物は多彩です。ドジで好人物の茶畑巡査。関東軍従軍看護婦だったという経歴を持つ、閑さえあれば雑巾を作っている宮本看護婦。センセが命名したバー「栗とリス」のママ。そして、昼に向かいの診療所に出勤して3時には帰ってくる鯛山先生。

獣医と医者の違いは有るものの、どこか英国のヘリオット先生シリーズを思い起こさせるものがあります。豊かな自然描写、著者の暖かな眼差しなどです。もっとも、鯛山センセの方が良くも悪くもはるかに土俗的ですが。

図書館や古本屋で見かけたら、是非手にとっていただきたい作品です。
そういえばこのシリーズは、漫画家・石川サブロウさんによって漫画としてもシリーズ化されてるそうです。

〔2006/9/02追記〕
見川先生は2005年8月5日心筋梗塞にて亡くなられました。
これを知るきっかけになったのは、昨日のちーねーさんのBBSへの以下の投稿でした。

”とうとう行って来ました。
はるばる那須まで・・・。
残念ながら鯛山(泰山)センセは昨年夏にお亡くなりになりましたが・・・。
かえすがえすも一昨年夏に予定通り行けていたら、と残念でたまりません(TT)
お会いできたかどうかはわかりませんけどね・・・
(中略)
恐る恐る訪ねた見川医院の受付。
宮本さんを彷彿とさせるようなおばあちゃんが、快く病院前での撮影を許してくださいました。
通りをはさんだご自宅には小さな「見川泰山」の表札があり、坂を上った先には那須ビューホテル。
そして、医院の裏はうっそうとした雑木林があり、今でもセンセに育てられたフクロウやらいろんな生き物が闊歩していそうでした。
信じられないくらい無秩序な観光化が進んだ那須街道にがっくりしただけに、見川医院を囲む一角の佇まいにはホッとして嬉しくて・・・。

見川鯛山さんをご存知ない方には何のことやらわかりませんよね。ごめんなさい。

Todo師匠、見川医院、行っちゃいましたー!!”

略歴

記   述
1916 栃木県安蘇郡上野村にて18代続く医家の子として生まれる。本名 見川泰山。
1940 医者になる。
1942 当時、無医村だった那須湯本で開業医としての生活を始める
1944 陸軍衛生二等兵として招集され、中支で2年間を過ごす。
1950頃 避暑のために那須に滞在中の獅子文六を診療。付き合いが始まる。
1955頃 随筆・短編小説を書き始める
1967 医家向け月刊誌 Scopeへの連載を開始する。
1974 「田舎医者」が毎日新聞社より刊行される。以後、シリーズ化される。
2004 「見川鯛山これにて断筆」を出版。文字どおり断筆。
2005 8月5日心筋梗塞にて死去。享年88歳。

▽▽読了作品(2002以降の読了本は書評付き)▽▽