三崎 亜記
解説
最初は風刺小説(寓話)なのかと思いました。しかし、それほど教訓的ではありません。また不条理文学に分類されるほど文学的でもありません。やはりエンターテインメントの系列でしょうね。
以下、2016年12月の別冊・文芸春秋に掲載された三崎さん自身の文章です。
「三崎さんの小説って、SFですね」
大阪の、某書店の書店員さんに言われた言葉だ。
「サイエンス・フィクションじゃなくって、『少し、不思議』の頭文字のSFです」
うん、言い得て妙だ。
ーーー中略ーーー
「素敵な、ファンタジー」になるかどうかは「すこぶる、不安」なんだけれど、「それでも、奮起して」、「締め切りギリギリまで、踏ん張る」しかない。
ご本人が言ってるように、ファンタジー小説なのでしょうね。
とは言え、単純なファンタジーでもなく、日常生活に振り当ててみると、どこかゾッとするような風刺が含まれていたりします。
特異な作風です。
三崎さんの世界では、しばしば街や建築物、道路、鉄道などの無機質が意識を持ちます(意識があるだけでアクティブな動きはしないのですが)。日常の中に「歪み」を放り込む。それに主客を逆転した様な論理を強制付会して歪みを広げ、日常を崩していく(7階で犯罪が多い→7階を撤去する)。
そういった設定そのものが楽しいのですが、それだけでは単なる際物(きわもの)で終わってしまいます。
それに加えて三崎さんの作品には、滅びの美学のようなものが有ります。
街が突然消滅し、人が消え、廃墟を目指した建築が行われる。そういった事が、ちょっと薄暗い、どこか静寂感のある文章で記され、不思議な美しさを感じさせてくれます。
もう一つ、「職人」に対する憧れのようなものを感じます。
三崎さんの小説にはしばしばxx師、xx技師と呼ばれる人が登場します。それらの人は理論的な世界で生きるエンジニアでは無く、どこか精神的で、職人気質を感じさせます。
一般受けするような小説ではないでしょう。はなから受け付けない人も多いと思います。特に「風刺だ」とか「おとぎ話」だとか強い先入観を持って読もうとすると裏切られたように感じると思います。
まあ、そのくらい独特で面白い作家さんなのだと思います。
略歴
年 | 記 述 |
---|---|
1970 | 福岡県で生まれる。現在、福岡県久留米市在住。 |
19xx | 熊本大学文学部史学科卒業 |
1998 | パソコンを買ったことをきっかけに、市役所職員のかたわら「となり町戦争」の執筆を始める |
2004 | 「となり町戦争」で第17回小説すばる新人賞受賞しデビュー |
2006 | 「第3作「失われた町」の刊行後、市役所を辞し専業作家となる。 |
受賞歴
一貫して上記のような特異な作風で書き続けている作家さんです。
その中で『失われた町』や『鼓笛隊の襲来』で直木賞候補になるなど、何度か文学賞候補には上がるのですが、受賞することは難しいと思います。
ですから受賞歴は新人賞だけですが、今後もブレずに書き続けて頂きたいと思います。
作品 | 賞 | 受賞年 |
---|---|---|
となり町戦争 | 小説すばる新人賞 | 2009年 |
その他
三崎さんの小説、特に『失われた町』以降の長編では、日本のパラレルワールドと言える「この国」を背景にし、一つの世界を築き上げようとしているように見えます。
既読作品から地理的な情報を抜き出し「この国」の地図を作成してみました。
こちらをご覧ください→三崎亜記の「この国」
▽▽読了作品(2002以降の読了本は書評付き)▽▽